Welcome to the オーストラリア大使館のカルチャーセンター

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カルチャー・センターは2013年2月末で廃止となり、それ以後はこちらへ移行しました。


ザ・ドリーミング・フェスティバル2009

アボリジニ・トレス海峡島しょ民芸術委員会 エグゼクティブ・ディレクター
リディア・ミラー氏のスピーチ

「ここでこうして皆さんにお話できることを大変嬉しく思います。今日はまず、私が子供の時に体験をしたことをお話しします。私はその時13歳で、それは社会科の授業、『社会における人々』(Men in Society) という授業でした。先生は黒板の前に大きな地図を広げると、『これはオーストラリアの地図です。そして、このブルーに塗ってあるところが、アボリジニの人々の土地です。アボリジニとは、オーストラリアのマイノリティーです。』と言いました。

私は手を挙げて反論しました。

『先生、ここは私達(アボリジニ)の土地、国です。オーストラリアのマイノリティーは、先生の方ですよ』

家に帰ると、母はいつものように私に『今日は学校どうだった?』と聞きました。

『聞いて、ママ。今日先生が何て言ったと思う?私達アボリジニは、この国のマイノリティーだって言ったのよ。信じられない!』すると母は、私を座らせて宥めながらこう言ったのです。『いいえ、私達はマイノリティーなのよ』私は本当に驚き、そしてショックを受けました。そしてこの時から、私達アボリジニは人口に占める割合は少ないけれども、確かにこの国は昔からアボリジニのものだという考えを持つようになりました。そしてそれは、今も変わりません。

フェスティバルに来てくださっている皆さんには、この国の魂・本質・心・感性そして慣習を知ってもらいたいと思います。そしてこの思いこそが、フェスティバルという”旅”の大切なスタート地点なのです。

私達は、今日世界で何が起きているのかを理解し、お互いに関係性を築いていかなければいけません。そして、そこで芸術と文化の果たす役割とは何なのでしょうか。

今世界でなされている多くの対話・対立の根底にあるのは、土地、財産の獲得、いかにして権力・富・資源・経済力を手に入れるかという考えばかりです。そしてそこには、裏切りが生まれます。なぜ、不当に奪った土地が正当化され、他の人間を迫害すること、排除することが正当化されてしまうのでしょうか。そういった対立や争いの言葉を超越する”言葉”を、芸術と文化は私達に与えてくれます。そしてその「言葉」によって私達は絆を深めることができます。思う、考える、見る、感じる、理解するというのは、人間の素晴らしい能力です。音楽・ダンス・演劇・ビジュアルアート・写真・シンボル、文章などといった芸術、文化によって、私達は言葉の壁を越えて結びつくことが出来るのです。

互いにコミュニケーションをとりたい、関わりを持ちたいという欲求が私達人間の心理の根底にあり、まさにそこから芸術・文化は生まれました。ですから、互いに孤立しあうというのは不自然なことですし、本来人間らしくないことなのです。そういった意味でも、このドリーミング・フェスティバル、オーストラリアという国のこの地域にフェスティバルを見に来て下さり、先住民の文化を知ろうとしてくれる人達を私は大変嬉しく、誇りに思います。このフェスティバルでは様々なパフォーマンスが行われますが、それらを通して私達は一つになって紡ぐことの出来る糸を見つけることができます。それが本当に大切なことなのです。そして、ドリーミング・フェスティバルの芸術監督である、ローダ・ロバーツも同じ考えを持っています。

1997年、ドリーミング・フェスティバルがシドニー・オリンピックのフェスティバルの一部として開催された時、私達は自分達の文化の持つ素晴らしさ、美しさ、理想を再確認しました。芸術、文化の原点は、祖先から代々受け継がれてきた伝統、土地、海、慣わし、そして言葉です。

そして先住民の文化に触れ、それを知った時、彼らの「独立」に対する強い感情を知るでしょう。私は、これこそがとても重要なことだと思っています。なぜなら、文化を知るということは、ただ単に表面上の様式や流行を知るということではないからです。ドリーミング・フェスティバルは、私達先住民の土地やそこに住む人々との関わりについての物語、そして私達を取り巻く世界との関わり方と深くつながっています。芸術を通して、皆さんは先住民の人々が語りかけてくることを理解するでしょう。クリエイティブな表現を通して、先住民の人々の感性、感情を理解することができるのです。そしてそれこそが活発でエネルギーに満ちた”対話”なのです。対話をする時、そこに対立が生じることもあるでしょう。でも、人々が積極的にそして真っ直ぐな気持ちで関わりあうためには、対立すること、愛すること、涙を流すこと、笑うこと、そして相手に耳を傾け、理解することが必要なのです。

オーストラリア・カウンシルのアボリジニ・トレス海峡島しょ民芸術委員会は、この国の文化の発展を促進し、それを通じて先住民がその文化遺産を維持、管理し、高められるように設立されました。私達の役割は、この国がこれまで経験してきたこと、そしてそこから得たものを守っていくこと、そしてそのためには、先住民の人々に敬意を表すだけではなく、積極的な対話が必要なのです。それはつまり、それぞれの立場における文化的なアイデンティティーを尊重し合う、国境を越えた”異文化間の対話(インターカルチュアル・ダイアローグ)”であり、互いに理解し協力することです。

第二次世界大戦後、恐怖を目の当たりにした人々は、戦争は人間の心の中で始まると気づかされました。私達はそういった人々の心の中に、平和、安らぎを見出していきたいのです。文化や対話によって、私達は互いに向き合い未来についての話を始めることができます。そして、自分達のアイデンティティー、さらには次の世代のアイデンティティーも形作ることができるのです。そのアイデンティティーとは、私達が祖先から受け継いできたもの、自分達が何者で、どこへ向かい、そしてどこからやってきたのか、ということです。

オーストラリア・カウンシルは、創造性に満ちた、ドリーミングを始めとする素晴らしいフェスティバルをサポートすることで、マスメディアや情報社会の枠組みを超えて、私達のアイデンティティーが受け継がれていくことを望んでいます。そしてフェスティバルを通じて対話が活発に行われ、世界の様々な地域から来てくださった皆さんに、オーストラリアで今何が起こっているのかを知って頂きたいと思っています。また同時に、皆さんの国、文化についても聞かせてほしい、その対話によって、これから共に紡いでいける糸を見出していきたいと思っています。

まだまだお話したいことは沢山あります。例えば、音楽というものがどんな意味を持つのか、物語が何を意味するのかなどです。特に、先住民の人々の人間が持つ、生きていくための大切な知恵、私達は海・土地の一部であり一つの種として他といかに共生するかということです。

皆さん、是非対話をして下さい。そして心の中に生まれた想いを大切に育んでください。そうすれば、アーティストとして、そして文化人として理解しあい、ともに歩み始めることができるはずです。」